ストーリー ② 中国美食の洗礼

初めて串焼きラム肉(羊肉串yang rou chuan)を食べたのは上海人の友達に連れて行ってもらった呉江路(wu jinag lu)の路地でした。大学2年の夏休み日本から上海へ遊びに訪ねて行ったある夜、散歩がてらの夜食に、何もわからず食べたのを覚えています。世の中にこんなジューシーで香ばしいものがあるのかと衝撃でした。ラム肉の処理が良いのか臭みなんて全く感じませんでした。当時は大きいのが1串2元、調味料は見た感じクミン(孜然zi ran)の粗挽き粉がまぶしてあっただけだと思います。最後に「唐辛子要りますか?」と聞いてくれます(辣要不要la yao bu yao/辣要吗la yao ma)。

 

それから2年後、私は上海に留学することになり、数年の月日が流れ色んな変化がありました。

 

先ず、呉江路はB級グルメストリートとして昔から地元で有名でしたが、2010年頃には再開発され大型商業施設の一部となり、今では現代風美食街になってます。

 

串焼きラム肉もいくらかは忘れましたが値上がりして相場が2元でなくなったのは確かです。ちなみに串焼きラム肉は上海では主に新疆出身の人が売っていて中国では大体どこでも食べれます。

 

聞いた話では、私がいた上海の大学の裏門前の屋台で串焼きラム肉を売っている店主の月間売上が3万元に上ると言っていました。屋台なので家賃はなくて、コストは材料と串、木炭、コンロとリアカー、ラム肉を切って串に刺す手間ぐらいだと思います。当時就職した友人の初任給が月3千元だったので、3万元はサラリーマンでは到底稼げない金額です。

 

一方で、中国に城市管理局(中国語で城管cheng guanと呼ぶ)という無届け屋台の取締りを専門にやっているような行政機関があり、彼らに出店が見つかってしまうと商売道具をトラックで全て没収されてしまいます。市民の立場は、屋台って安くて便利で美味しいのに城管に撤去されるのは可哀そうだという声をよく聞きました。

 

屋台の商売人達は仲間内で協力し合ってこの城管のパトロール車両が近くに来ると電話で知らせ合っているらしいです。実際、私が大学の裏門前の屋台で炒河粉(平麺の焼きビーフンのようなもの)を注文して先にお金を渡そうとした時、店主が麺を炒めながら「お金はまだ渡さないで!城管が近くに来てるみたい、もし来たら調理中でも逃げるから」と言いました。私が「なぜ近づいてるってわかるの?」と聞くと、店主は「あそこの店主が電話してるだろう、近くの仲間内から連絡が入ってるようだ」と教えてくれました。確かに見ると他の屋台の店主が片手で炒めながら片手で電話してました。

 

中国美食の洗礼は序章に過ぎず、後に井の中にいた私の美食観は大海を知ることになります・・・

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中国の串焼き羊肉